そうべつ人の暮らし
移住者インタビュー
杉山 智美さん

Sopela (クレープ&ランチ・ソペラ) オーナー 杉山 智美さん

北海道伊達市出身
▶ 東京都
▶ 壮瞥町
<移住歴5年>

クレープに、壮瞥をまるごと包んで。季節の巡りと恵み、人の温かさを頬ばる幸せ。

飲食の世界に転向も、
コロナが障壁に。
戻る気のなかった北海道に
夢の近道が。

琺瑯(ホーロー)のケトルが、ストーブの上で静かに湯気を立てている。
木彫りの熊、アーティストの絵や店名入りのライトボックスなど、厳選された雑貨たちが心地よく並ぶ店内は、壮瞥町で収穫された旬のリンゴも、癒しの空間に一役買っている。
店の名は、『Sopela(ソペラ)』。
アイヌ語で滝の川を意味する「ソぺッ("壮瞥"の由来)」と、壮瞥町と友好都市提携を結ぶケミヤルヴィ市との縁から、フィンランド語の接続詞「lla(ラ):〜の」を組み合わせた造語で、「壮瞥の〜」という意味を込めた。
「東京暮らしが長かったので、戻る気持ちは全くなかったんですよね」。
そう話すオーナーの杉山智美さん。町の中心部にある同店は、杉山さんのセンスが隅々に行き届いた新たなスイーツ&ランチスポットだ。
「ずっとアパレル業界にいました。ビジュアル・マーチャンダイザーという、店舗空間のコンセプトを考え、視覚的に魅力ある売り場づくりを行う仕事です。会社員として働きながらマクロビオティック※の料理教室に通い、飲食の世界に転向しようと退職した矢先にコロナ禍。修行先の飲食店が休業になりました」。
先の見えない日々が続き、何か行動を起こさなければと思った時に出合ったのが、壮瞥町の地域(農業)おこし協力隊の募集だった。
「京都の醸造会社・丹波ワインさんが、壮瞥町で醸造用ブドウの試験栽培を始めて3年目くらいの時でした。果樹の町で醸造用ブドウ栽培の黎明期に携われることにワクワクしましたし、食材の生産過程を学ぶことは飲食の世界に役立つと考え、思い切って応募しました」。
初めてだらけの地域おこし協力隊の世界。そこで経験したすべてが、『Sopela』開業につながっていく。

※マクロビオティックとは:全粒穀物や野菜、豆類、海藻、伝統製法による調味料などで作られた食事をとることで、自然と調和した暮らしを実現する考え方。その土地で採れたものを旬に食べる「身土不二」や「一物全体(自然の恵みを丸ごといただく)」を重要視する。

農業研修中の出会い。
採れたての有機作物を使って
20人分のまかないを
作るチャンス!

農業おこし協力隊では、醸造用ブドウの圃場管理業務をはじめ、一年目は「町を知る」をテーマに、研修先の果樹農家で、さまざまな仕事を体験できたという杉山さん。
「春のイチゴから始まり、サクランボ、プラム、ブルーベリー、桃、梨、プルーン、11月のリンゴまで、壮瞥の肥沃な大地は、実りを絶やしません。果樹の繁忙期が終わって冬の過ごし方を考えていた時に、町内に有機栽培のファームがあることを知り、お手伝いを申し出ました」。
そこは、一年中稼働している、以前『移住者の声』で紹介した農業合同会社・自然農業社さんだ。
マクロビオティックを学んだ杉山さんは有機農業の現場に興味を持ち、役場の許可を得て、同社の小田代表の元で農作業のお手伝いを始めた。
「立香(たつか)地区にある農場で、昭和新山を望む平地の畑や、山あいの畑は森が隣接して日当たりなど不利に見えますが、森の生き物たちが作物の生育に役立つ自然の循環を大切にしている農場です。冬はダイコンや豆の加工品づくりを行っており、切干し大根づくりのお手伝いもさせていただきました」。
2年目になると、杉山さんに好機となる仕事が巡ってきた。自然農業社で働く社員さんの食事(まかない)作りを担当させてもらうことに。
「小田さんに、私はゆくゆく飲食店をやりたいと伝えたら、キッチンを使ってみんなの食事作りをやってもいいですよって。自然農業社さんの有機野菜や豆類、加工品などを使って週1、2回、15〜20人分の食事を作らせていただくことになりました」。

Farm to Table.
素晴らしい壮瞥の農産物を
味わえる店に。
同僚や町民がサポート。

畑で作物が育つ過程を学び、キッチンで食材の持ち味を生かす献立を考え調理する。四季折々に壮瞥で収穫される恵みの豊かさと、それらを日常的に味わえる環境に感激したと杉山さんは話す。
「人生の半分ほどを東京で過ごしましたが、壮瞥町の農作物のおいしさは、都心ではなかなか出合えません。首都圏に行列のできる老舗ベーグル店があり、私も大好きですが、その店の『あんバターベーグル』は自然農業社さんの小豆を仕入れています。人気店のオーナーが注目する品質なのです」。
壮瞥町の豊かな果樹、野菜、豆類、自然有精卵や加工品。協力隊として関わった生産者の皆さんが育む恵みを、将来、自分の飲食店で提供したいと思った。
「町内の果樹園直売所でフルーツを買うと、食べごろの品だけを薦めてくださいます。明後日食べたいと言うと、じゃぁコレだねって。2日後に食べると、本当に芯まで甘くて完熟で。東京で買っていた果物は何だったんだろう?と思いました。でも、壮瞥町に来て生産現場に携わり納得しました。生産者さんが丹精込めて育てた作物ですもの、一番おいしい状態で食べてほしいと思うのは当然ですよね」。
産地の強みを活かし、生産者の顔の見える距離で飲食店を営む魅力は大きい。しかし、町内に店が少ないため、空き店舗探しは難航した。
「物件探しを手伝ってくれたのは、地域おこし協力隊の同僚の皆さんでした。さらに、飲食店経営の経験がない私に、設備や改装費用が妥当かなど、助言してくださったのは町内の工務店さんです」。
東京を離れるつもりのなかった杉山さん。しかし、壮瞥に来てから一年また一年と、日々を重ねるうちに知り合いが増え、少しずつ居心地のよさを感じていった。
「町の皆さんの支えや協力がなければ実現しませんでした。壮瞥町の素晴らしい食材を知り、生産者さんとのつながりができ、物件も決まった。さて、何のお店を始めようかと (笑)」

クレープの中で、
ワンプレートの上で。
壮瞥の恵みが出合い、
交流が生まれる喜び。

農業研修でお世話になった生産者の皆さんとの日々を思い、杉山さんは店のコンセプトを決めた。
「果樹の町・壮瞥産のフルーツを楽しむクレープを作ろう、と思いました。地域おこし協力隊が運営する『地域のあそびばミナミナ』に行ってみんなに相談したら、いいね、と賛同してくれて」。
それからは怒涛の"特訓"が始まった。薄くて柔らかいクレープ生地をきれいに焼く特訓だ。
「500枚くらいは焼いたかな(笑)。開業前は『ミナミナ』で週1回、お試し営業もさせてもらいました」。
オーダーを受けてから焼くのがプレッシャーだと話す杉山さんだが、取材カメラの前でも見事に焼き上げてくれた。生地には、豆乳、キビ糖や甜菜糖を使い、平飼い卵を使った豆乳カスタードに、植物性のホイップクリーム、フルーツのコンポートやソースも自家製で、添加物を極力使用しない身体にやさしいクレープだ。
「食材の持ち味を生かしたいので、クリームは自然なおいしさを心がけています」。
この日メニューに並んだ食材は、壮瞥産のリンゴ(恵×紅玉)、カボチャ、ブルーベリー、とら豆。リンゴのクレープは、紅玉という品種の特長である爽やかな酸味が口の中に広がる。煮豆の王様・とら豆も、杉山さんの魔法にかかれば、豆の風味と食感を残したペーストクリームに変身、生地の中で主役を飾る。
「生産者の皆さんが、お店に来てくださるのが嬉しくて。席数が少ないのでランチやクレープのイートインでは相席になってしまいますが、生産者さんをお客様にご紹介する機会も多く、この店で交流が生まれることが大きな喜びです」。
クレープの生地の中で、そして、ランチのお皿の上で。
壮瞥町の季節の巡りと恵み、そして、人のつながりや温かさが結集したおいしさは、『Sopela』でしか味わえない、まさに"壮瞥の"味となっている。

Pick up

イラストが目を惹くクレープの包装紙は、前職で同部署にいた後輩の作品。町内・大作農園の規格外トマトを使ったオイル漬けの商品ラベルも手がけてもらった。

ドライブ中でも手軽に食べられる、持ち帰り用の「お包みクレープ」。地域の有機野菜などを使用したワンプレート料理やドリンクもあり、カフェとして利用できる。

雑貨や小物一つひとつに杉山さんのセンスが光る。横が丸くくり抜かれた印象的なテーブルは、工務店さんが協力してくれた。珪藻土の塗り壁は杉山さんのDIYだ。

Sopela ソペラ

壮瞥町滝之上町284-24
営業時間:金・土・日 11:00〜16:00
(金曜は野菜ランチ14:00L.Oとテイクアウトクレープ、土日はクレープや軽食が中心)

Instagram

https://www.instagram.com/sopela0823/

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